美しくもシビアな蝶の世界『にわのキアゲハ』
ここ数日、暖かい日が続いたからか、長男との散歩中に小さなちょうちょが飛んでいるのを見かけた。
春が近づいてくると、長女の読み聞かせに登場するのが、
岩渕真理作『にわのキアゲハ』(福音館書店 かがくのとも2016年4月号)
である。
リアルで美しい絵と、小さい子でもわかりやすい丁寧な文章が魅力的な説明文的絵本だ。
読み聞かせというと、物語的な本をイメージしていたが、長女は意外と説明文的な本も好む。
思い返してみれば、私も子どもの頃は、説明文的な本に気に入っているものが多くあった。
文章が整然としていて、子どもにはわかりやすいのかもしれない。
『にわのキアゲハ』は、卵で産み付けられたキアゲハが、孵化して脱皮を繰り返し、蛹を経て成虫になるまでの話である。
と、これだけ書くと、何が面白いのかと思われてしまうだろうが、絵と内容がとにかくリアル。
産み付けられた時は38個あった卵は、卵のうちに食べられたり寄生されたりして、孵化できたのが半分ほど。
更に孵化してすぐにクモなどの他の生き物に食べられてしまうものもいる。
その、食べられる様子もちゃんと描かれている。
その後、脱皮を繰り返しながら大きくなっていく幼虫。
しかし悲しいかな、大きくても幼虫は幼虫なので、さまざまな天敵に次々と食べられてしまうのだ。
その成長の様子と天敵との攻防、敗北が絵本らしい優しい文調で淡々と書かれていく。大人が読んでも「へえ〜」と思う。
絵も写真のように鮮やかで精密。
正直、キアゲハの幼虫などはちょっと触るのがためらわれるくらい本物っぽい。
背景の植物や他の虫も豊富に描き込まれているので、本文とは関係ない生き物を探すのも楽しい。
長女は特段虫好きではないが、それでも面白いようなので、虫好きならもっと楽しいかもしれない。
自然界は厳しい、とよく聞くけれど、本当にそうなんだなあと子どもでも実感できる1冊である。
実際、長女はキアゲハだけでなくちょうちょを見るにつけ、
「がんばったんだねえ、食べられなくて良かったよねえ」
と言うようになった。絵本、侮り難し。
ただし、この本は虫嫌い、特に幼虫系が苦手な人にはおすすめしない。
絵が図鑑並みなので、軽いトラウマになるそうだ。
だから、虫嫌いの夫は絶対に読み聞かせ致しません。